ベトナムは世界有数の米生産国であり、米は国民の主食として文化的にも重要な位置を占めています。一方、近年はベトナムでも日本米の人気が高まりつつあります。
今回は、現地在住者の視点から、ベトナムに行ってみたい方や住んでみたい方に向けて、ベトナムの米事情と日本米の現状について詳しく解説します。
ベトナム米と日本米の基本的な違い
ベトナム在住4年目の私が最初に驚いたのは、両国のお米の見た目や味わいの違いでした。
スーパーマーケットの米コーナーを見ただけでも、その違いは一目瞭然です。

筆者撮影
品種と外観の違い
ベトナム米と日本米は、見た目から大きく異なります。
ベトナム米:主に長粒種(インディカ米)で、粒が細長く、透明感があります。代表的な品種には「ナムロン(Nam Rong)」や「ST24」などがあります。
日本米:短粒種(ジャポニカ米)で、粒が丸みを帯び、やや白濁しています。ベトナムでは「Gạo Nhật」(日本米)として知られています。
ホーチミン市のベンタイン市場で米販売を営むベトナム人によると、「ベトナム人は見た目で米を選ぶ傾向があり、長くて透明感のある粒を好む人が多い」とのことです。
食感と味わいの特徴
炊き上がりの食感と味わいにも大きな違いがあります。
ベトナム米:パラパラとした食感で、粘り気が少なく、一粒一粒が独立しています。香り米(Gạo thơm)は独特の芳香があります。
日本米:もっちりとした粘り気があり、つやがあります。ほのかな甘みが特徴です。
私のベトナム人の友人たちに日本米を振る舞った際には、「粘り過ぎて箸で食べづらい」という感想と「甘みがあって美味しい」という感想がありました。
また反対に、私はベトナムで食べる米には甘味と粘り気が足りないと感じます。
調理法の違い
両国の米は調理法も異なります。
ベトナム米:水の量を多めにして炊くことが一般的で、洗い方も日本ほど丁寧ではありません。また、浸水時間も短いか、浸水せずに炊くこともあります。
日本米:水加減を正確に測り、しっかり研いでから30分以上浸水させるのが基本です。
ベトナム農業農村開発省のデータによれば、ベトナム人の一人当たりの年間米消費量は約130kg(2022年)で、日本人の約55kgと比べて2倍以上です。これは米が三食すべての主食となっているベトナムの食文化を反映しています。
引用元:ベトナム統計総局のデータ https://www.gso.gov.vn/en/agriculture-forestry-and-fishing/
ベトナムにおける日本米の市場と評価
ベトナムでは、日本米は高級輸入品として位置づけられています。
現地在住者の目線から、その市場動向と評価について詳しくお伝えします。

筆者撮影
ベトナムでの日本米の価格と入手方法
ハノイ市内のスーパーマーケットやオンラインショップでの調査によると、日本米の価格は以下の通りです。
高級スーパー(Annam Gourmet等):1kg当たり 200,000VND前後(約1,200円)
日本食材専門店(Akuruhi, Tokyo Deli等):1kg当たり50,000〜100,000VND(約600〜1,200円)
オンラインショップ(Shopee, Lazada等):1kg当たり30,000〜80,000VND(約180〜480円)
これに対し、一般的なベトナム米は1kg当たり15,000〜40,000VND(約75〜200円)程度で、日本米はベトナム米の2〜5倍の価格帯となっています。
日本産の輸入品は特に高級ですが、日本と同じ品質で食べることができます。
ベトナム産のジャポニカ米は比較的安めですが、私は日本産の米に比べると少し水分と甘味が足りないように感じます。
私がよく利用するハノイのスーパーマーケット、TOMIBUNでは、「魚沼産コシヒカリ」や「ササニシキ」などの高級品から、比較的手頃な「ひとめぼれ」まで、数種類の日本米が販売されています。
ベトナム人の日本米の感想
現地の友人や同僚からよく言われる日本米に対する感想を紹介します。
良い評価:「つやがあって見た目が美しい」「もちもちした食感が新鮮」「寿司やおにぎりには最適」
悪い評価:「価格が高すぎる」「粘り気が強すぎて慣れない」「ベトナム料理には合わない」
特に興味深いのは、「日本米は健康に良い」という評価が広まっていることです。
ベトナムの健康志向の若い世代を中心に、白米よりも栄養価が高いと考えられている日本の玄米や雑穀米に関心を示す人が増えています。
ベトナム貿易局のデータによれば、日本からベトナムへの米の輸出量は年間約500トンで、近年緩やかに増加傾向にあります。
引用元:ベトナム貿易統計 http://www.customs.gov.vn/
ベトナムにおける日本米の入手方法と保存のコツ
ベトナムで日本米を入手する方法と、高温多湿の気候下での保存方法について、現地在住者としての経験をご紹介します。
日本米が手に入る主な場所
ホーチミン市やハノイなどの大都市では、以下のような場所で日本米を購入できます。
日系スーパーマーケット
Aeon Mall(ホーチミン市、ハノイ市、ビンズオン省など)
FujiMart(ハノイ市)
TOMIBUN(ハノイ市)
業務スーパー(ホーチミン市、ハノイ市)
日本食材専門店
Akuruhi(ホーチミン市、ハノイ市)
Tokyo Deli Market(ホーチミン市)
Ichiba Junction(ホーチミン市)
高級スーパーマーケット
Annam Gourmet
BRG Mart
Lotte Mart
オンラインショッピングサイト
Shopee
Lazada
私の経験では、Aeonモールが最も品揃えが豊富で、定期的に日本からの輸入品フェアも開催されるため、お得に購入できることがあります。
また、ホーチミン市タンビン区にあるAkuruhiやハノイにあるTOMIBUN、業務スーパーなどは日本人駐在員に人気で、比較的種類多くの日本米が取り揃えられています。
ベトナムの気候下での米の保存方法
高温多湿のベトナムでは、日本米を適切に保存することが重要です。現地在住の日本人が実践している保存方法をご紹介します。
密閉容器の活用:虫や湿気を防ぐため、密閉性の高いプラスチック容器やガラス容器に保存する
冷蔵保存:特に雨季や夏場は冷蔵庫での保存がおすすめ
(私は5kg以上の量を購入した場合、1週間の使用分以外は冷蔵保存しています)
乾燥剤の使用:米びつに小さな乾燥剤を入れる方法も効果的
小分け購入:一度に大量購入せず、2〜3kgずつ購入する
私の経験上、お店で購入した米でも、傷んでいたり、風味が落ちていたことがあるので、古すぎるものではないか、お店の管理は適切かをしっかり見定めることが大切です。
また、ベトナムでは米びつにカビが生えやすいので、透明な密閉容器に入れて冷暗所に保管し、定期的に様子をチェックすることも忘れないようにしましょう。
現地での日本米の炊き方のコツ
ベトナムの水質や気候を考慮した、日本米の炊き方のコツをご紹介します。
水質対策:ベトナムの水道水は硬水が多いため、浄水器を通した水か、ミネラルウォーターを使用するのがおすすめです。
洗米のポイント:高温環境で保存されていることが多いため、通常より丁寧に洗うことをおすすめします。
浸水時間の調整:気温が高いため、日本より浸水時間を短めにしても良いでしょう。(夏場は20分程度で十分)
水の量:日本で炊くより、1〜2割多めの水を入れるとふっくら炊き上がります。
炊飯器の選択:可能であれば日本製の炊飯器を使用すると、本来の味わいを楽しめます。
私自身、ベトナムに来た当初は米の炊き上がりに満足できませんでしたが、水を多めに入れて調整し、日本から持ってきた炊飯器を使うことで、日本と変わらない味わいを実現できるようになりました。
ベトナム米と日本米の食文化の違い
4年間のベトナム生活で体験した、両国の米を中心とした食文化の違いについて解説します。
食事のスタイルと米の位置づけ
両国とも米を主食としていますが、その位置づけには違いがあります。
ベトナム:「Cơm」(ご飯)を中心に、複数のおかずを家族で取り分けるスタイル。米は味付けされておらず、おかずの味を引き立てる役割。
日本:「一汁三菜」のように、ご飯とおかずが個別に盛り付けられるスタイルが一般的。米自体の味わいも重視される。
ホーチミン市内のローカルレストランでは、「Cơm Bình Dân」(コムバインザン)(大衆食堂)と呼ばれる店で、白いご飯の上におかずを選んで載せる「Cơm Tấm」(コムタム)スタイルの食事が人気です。
この食べ方は、米とおかずを混ぜて食べることが多く、米の粘り気が少ないことが重要です。
米を使った代表的な料理の違い
両国の米を活用した料理には、大きな違いがあります。
ベトナムの米料理
Bánh Chưng(バインチュン):もち米、豚肉、緑豆を竹の葉で包んで蒸した正月料理
Cơm Tấm(コムタム):砕け米を使った料理で、グリルポークと共に食べる南部の名物
Xôi(ソイ):もち米のおこわで、甘いものと塩味のものがある
Bánh Cuốn(バインクオン):米粉の生地で具材を包んだ蒸し料理
日本の米料理
寿司:酢飯に魚などをのせた料理
おにぎり:握り飯に具や海苔を組み合わせた携帯食
丼物:ご飯の上に具材をのせた一品料理
炊き込みご飯:具材と一緒に炊いた味付けご飯
ベトナムでは米粉を使った料理が発達しており、「Phở」(フォー)や「Bún」(ブン)などの麺料理も米文化の一部です。一方、日本では米粒を活かした料理が中心となっています。
米に対する価値観の違い
米に対する文化的価値観にも興味深い違いがあります。
ベトナム:「Cơm」(米)という言葉は「食事」そのものを意味し、「Ăn cơm chưa?」(ご飯食べた?)は「食事した?」という意味の挨拶になります。量と満腹感が重視される傾向があります。
日本:「お米」は神聖なものとして扱われ、「一粒残さず食べる」という教えがあります。品質や銘柄が重視されます。
ベトナム文化研究所のデータによれば、ベトナムでは米の生産量が豊かさの象徴とされ、「飢餓からの解放」という歴史的背景から、十分な量の米を食べられることが幸福の指標とされてきました。
現地の大学教授によれば、「ベトナム人にとって米は単なる食べ物ではなく、文化的アイデンティティの象徴であり、家族の絆を表すもの」だそうです。この点は日本と共通していると感じます。
引用:ベトナム文化スポーツ観光省 https://bvhttdl.gov.vn/
ベトナムでの日本米生産
近年ベトナムでは、日本米の品種の栽培が年々増加しています。
今ではその品質も高まり、ベトナム国内での流通や日本への輸出が期待されています。
北部山岳地域(ラオカイ省、イェンバイ省):気候が比較的涼しく、日本の短粒米の栽培に適しているとされています
メコンデルタ:水資源が豊富で気候が温暖なため、日本米の栽培に適していると注目されています
日越農業協力プロジェクト:JICAの支援により、日本米品種の試験栽培が行われています
農家と企業が協力し、日本の栽培技術を導入することで味の向上を目指しています。
実際に私も、普段からベトナム産の日本米を食べていますが、ほとんど日本で食べるものと変わりなく美味しく食べることができています。
まとめ
ベトナムと日本、どちらも米を中心とした食文化を持ちながらも、その特徴や食べ方には大きな違いがあります。長粒種のパラパラとしたベトナム米と、短粒種のもっちりとした日本米、それぞれの特徴を活かした豊かな食文化が発展してきました。
ベトナムでは日本食の人気とともに日本米への関心も高まっており、特に都市部の富裕層や若者を中心に、日本米を使った料理を楽しむ文化が広がっています。一方で、価格の高さや食習慣の違いから、日常的に日本米を消費するベトナム人はまだ限られています。
ベトナムを訪れる機会があれば、現地の米料理を楽しみながら、日本米を使った本格的な日本食レストランも訪れてみてください。両国の米文化を比較することで、新たな発見があるはずです。
また、在住日本人の方は、現地の気候に合わせた保存方法を工夫することで、ベトナムでも美味しい日本米を楽しむことができますので、今回の記事が参考になりましたら嬉しく思います。