中越関係:ベトナムと中国の歴史、現在、そして未来

ベトナムで働く

ベトナムと中国の関係は、歴史的、経済的、文化的な側面から見ると非常に複雑で多様です。

両国は地理的に隣接しており、長い歴史を共有していますが、その関係は友好と対立の間で揺れ動いてきました。

今後のベトナムでの生活やビジネスを考える上で、ベトナムと中国の関係を見極める必要があります。

この記事では、両国の歴史的背景、経済的関係、文化交流、現在の政治的状況そして二国間の将来の展望を詳しく解説します。

歴史的背景 支配力の中国、独立求めるベトナム

ベトナムと中国の関係は、数千年にわたる歴史の中で形成されてきました。

古代から中世にかけて、ベトナムは中国の影響を強く受けており、漢字や儒教などの文化が伝わりました。しかし、ベトナムは常に独立を求めて戦い続け、中国の支配に対抗してきました。

古代の支配: 紀元前2世紀から約1,000年間中国はベトナムを支配しました。この時期に多くの文化や技術が伝わりましたが、同時にベトナムの人々は反抗を続けました。938年にゴ・クェン(呉権)が南漢軍を破って独立を果たしましたが、19世紀後半まで北からの侵略に武力で対抗しつつ、中国の歴代王朝との間で朝貢関係を維持していました。

近代の対立: 19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランスによる植民地支配の中で、中国はベトナムの独立運動に対して支援を行いました。しかし、第二次世界大戦後の冷戦時代には、両国の関係は緊張を増し、特に1979年中越戦争は両国の関係を大きく悪化させました。

中越戦争の後、1979年から1991年までベトナムと中国の外交関係は断絶しました。1991年以来、両国間関係が再び正常化し、「国益」をベースとした通常の二国間関係として再出発しました。

経済的関係 依存関係が強まる

近年、ベトナムと中国の経済的関係は急速に発展しています。特に、貿易や投資の面での相互依存が強まっています。ベトナムにとって中国は輸入額で1位、輸出額で2位です。

貿易: 中国はベトナムの最大の貿易相手国であり、2021年の貿易額は約1750億ドルに達しました。ベトナムは中国に対して主に農産物(米、コーヒー、海産物など)や電子機器を輸出し、中国からは工業製品(電子機器、家電、衣料品など)を輸入しています。

投資: 中国はベトナムへの直接投資でも重要な国であり、多くの中国企業がベトナムに進出しています。特に、製造業やインフラプロジェクトにおいて中国の投資が目立ちます。特に、ハノイやホーチミン市などの主要都市で、中国の企業は工場や生産施設を建設しています。

経済協力: 両国はASEAN(東南アジア諸国連合)や地域的な経済協定を通じて、経済協力を強化しています。ベトナムと中国はインフラプロジェクトや交通インフラの共同開発など、さまざまな分野で協力しています。

文化交流は盛んだが、中国に悪感情を持つベトナム人も少なくない

文化的な交流も両国の関係において盛んです。歴史的に、中国の文化はベトナムに多大な影響を与えてきましたが、近年では相互の文化理解が進んでいます。

学生の文化交流では、多くのベトナムの学生が中国へ留学し、中国の文化や言語を学ぶ機会が増えています。また、中国からの留学生もベトナムに訪れ、文化交流があります。両国間の観光も増加しており、中国からの観光客がベトナムを訪れるケースが多くなっています。

南シナ海の領有権問題があり、政治的には中国に対する悪感情を持つベトナム人が少なくありませんが、経済的・文化的には関係が発展しています。

ベトナムと中国 現在の政治的状況

現在、ベトナムと中国の関係は、経済的な結びつきが強化される一方で、領土問題や政治的な緊張も存在しています。

南シナ海問題 今もバチバチ

南シナ海における領有権を巡る対立は、両国の関係において大きな課題です。中国もベトナムも南シナ海の一部の島に対する権利を主張しており、互いの対立が続いています。

2014年5月、南沙諸島(Paracel Islands: 地図中央)周辺で中国が設置した石油掘削装置付近で、ベトナムと中国艦船が衝突する事件が起こりました。中国の強硬な行動により、ベトナム全体で反中感情が高まり、主要都市でデモ活動が発生しました。デモ参加者が暴徒化し、漢字表記の工場を襲撃する事態が発生しました。問題の発端となった石油掘削装置は撤去されましたが、南沙諸島に関する問題はその後も続いています。

最近では2020年8月、中国が南沙諸島近辺で軍事演習を行なっていたことに対して、ベトナム政府が抗議しました。

コラム:リース期間「最長99年間」の経済特区問題
南シナ海問題のほかにも、2018年6月、ベトナムの北部・中部・南部地域にリース期間「最長99年間」の経済特区を新設する法案に中国が関与していることが発覚し、反対のデモが発生しました。

政治的対話

両国は経済的な協力を進める一方で、政治的な対話を通じて緊張を緩和しようとしています。定期的に高官同士の会談が行われ、関係改善に向けた努力が続けられています。

2017年11月、ベトナムは中国の「一帯一路」イニシアティブに参加を表明しています。ベトナムは、インフラ建設の推進のため中国からの投資を呼び込むことを期待しています。同時に、南シナ海問題をはじめとする安全保障上の懸念から、中国一国への依存を避け、日本やその他の国々からの支援とのバランスをとろうとしています

2023年12月習近平国家主席はベトナムを訪問しました。この訪問において、両国間の包括的戦略的協力パートナーシップの強化、未来共有コミュニティの構築・形成することを重視することで合意しました。

2024年8月には、トー・ラム党書記長・国家主席夫妻が国賓として中国を訪問しました。これはトー・ラム氏が党書記長・国家主席として初の外遊であり、2カ国間の包括的な戦略的協力パートナーシップを重視していることを示しています。

まとめ ベトナムと中国の将来の展望

ベトナムと中国の関係は、経済的な結びつきが強化される一方で、政治的な課題も残る非常に複雑で多面的です。

今後も両国は経済的関係をさらに進め、貿易や投資の拡大が期待されます。特に、ベトナムは中国の「一帯一路」イニシアティブに参加し、インフラ整備や製造業の強化を通じて、経済的な依存が深まる可能性があります。

一方で、歴史的にベトナムは中国の影響を強く受けており、友好と対立を繰り返してきましたし、南シナ海の領有権問題などの政治的課題は依然として存在します。これらの問題に対しては、対話と外交的解決が求められます。両国が互いの立場を尊重し、平和的な解決策を模索することで、地域の安定を維持することが期待されます。

文化交流では教育プログラムや観光の促進により、両国の人々の相互理解が進み、特に、若い世代の交流が未来の関係につながることが期待されます。

今後の中越関係がどのように進展していくのか、注視する必要があります。
この記事が皆様のお役に立てば幸いです。

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